この前の日曜日、茨城県で開催された、かすみがうらマラソンに参加してきました。
4月とは思えない寒雨にも関わらず、フルマラソンには16,000人を超えるランナーが出走。コース上にも、たくさんの応援の方々が出ておられて、私設エイドステーションもあちこちに設けられていました。
走っても走っても体温が奪われていく厳しい気候条件の中、私設エイドの一つで、温かいほうじ茶を出していただいたときは、あまりの美味しさにお金を払ってもいいと思ったほどです。
かすみがうらマラソンは、フルマラソン・10マイル・5kmの合計で25,000人がエントリーする、日本でも最大規模のマラソン大会の一つです。
運営母体は、きっと儲かっているはず・・・と思いきや、定員数×参加費の合計を算出してみると、わずか1億1,950万円に過ぎません。これだけで本当に、採算がとれているのでしょうか?
マラソン大会の収支モデルの一例として、東京都が「東京マラソン収支予算」を公表しています。
(注:この記事の投稿後、東京マラソンの詳細な収支データはネット上で公表されなくなりました。下記に記載してある数値は、以前公表されていた数値に基づくものです。)
皆さんも御存知のとおり、東京マラソンは、その知名度と人気度において、日本一の大会と言って過言ではないでしょう。しかし、公表資料からは、東京マラソンでさえも、東京都が1億4,600万円を負担しなければならない赤字イベントであることが分かります。
東京マラソンの開催に要する費用は、予算ベース(平成24年度)で、19億3,560万円です。このうち、約40%は競技運営費、約18%が事務局関係費、広報関係費と安全対策費がそれぞれ約11%。ここまでの費目で、全体の約80%です。
安全対策費には、交通規制の費用も含まれています。「交通規制にもお金がかかるの?」と思われる方も少なくないでしょう。東京マラソンの定員が35,500人ですから、全体の費用の11%に過ぎない安全対策費だけでも、ランナー1人当たり5,946円になる計算です。
この他で目立つ費目としては、ランナーのタイムを記録・測定する費用が、9,320万円(全体の約5%)。ランナー1人当たり2,625円になります。
費目を一つ一つ分析していくと、マラソン大会では当たり前だと思っていたモノゴトにも、実はかなりのコストがかかっていることが分かります。東京マラソンの参加費(一人10,000円)が、安く思えてきます。
一方で、収入構造はどうなっているのでしょう。
公表資料によると、ランナーから徴収する参加費の合計は、わずか4億5,200万円。大会直前に、東京ビックサイトで大々的に開催されている「東京マラソンEXPO」での販売収入も1億5,560万円に過ぎません。スポンサー企業・団体からの協賛金10億5,600万円がなければ、とんでもない赤字イベントです。
知名度・人気度ナンバーワンの東京マラソンでも、協賛金で黒字にできていないという事実。その他のマラソン大会が抱えている、収支面での厳しさがうかがい知れます。
空前のランニングブームを背景に、地方経済の活性化や「町おこし」を目的として、各地でマラソンイベントが企画・開催されています。
マラソンイベントによる地方への経済効果は、一過性のものではあるものの、決して小さくありません。
しかし、マラソンイベントを一つのビジネスモデルとして捉えると、ランナーの参加費だけでは採算がまったく合わない、極めて脆弱なモデルであることが分かります。
スポンサー企業・団体からの協賛金が得られなくなれば、イベント自体が開催できなくなる。協賛金の多寡は、企業や団体の業績や意思決定次第であり、実際にいくら出してもらえるかは、読み切れない。
マラソンイベントには、常に、多額の赤字を出してしまう可能性がつきまといます。
ビジネスモデルそのものの構造変換を行って、経済的なリスクを許容可能なレベルに引き下げなければ、民間企業が単独でマラソンイベントを主催するのは現実的ではありません。
日本各地で開催されるマラソン大会を巡って、その土地々々の良さを肌身に感じることは、何物にも代えがたい経験です。それがなければ、苦しい思いをして、わざわざ42.195kmを走る意味はありません。
ただ、マラソン大会の裏方では、常にシビアな「金勘定」が行われていることは、私たち市民ランナーの一人一人が意識しておくべきです。
マラソン大会で地方を訪れるときには、前泊したり、その地方の名産品を買ったりして、開催地にできるだけお金を落としていくだけでも、何らかの手助けになるはずです。
ちなみに今回、かすみがうらマラソンへのエントリーは、スポーツエントリーという、スポーツイベントの検索・申し込みができるポータルサイトを使いました。
申し込み手数料は、かすみがうらマラソンの場合、250円。イベント開催に関する経済的リスクをまったく負わずに、イベント申し込みの仲介を行うだけで、手数料が徴収できる。ビジネスモデルの観点からは、こういう商売が、一番うまみがあります。
この部分での構造変換を狙うことも、新しいビジネスのネタになりますね。
p.s.
ボストン・マラソン爆弾テロの犠牲者の方々、そして犠牲者のご家族の方々に、心から哀悼の意を捧げます。Pray for Boston.
神戸を拠点に活動するビジネスコンサルタント。アメリカでの7年間の勤務経験を含め、これまで色々な業界で、30を超える国・地域でプロジェクトに関わる。遊びで始めたInstagramへの投稿がきっかけになり、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活動。