経営戦略とマーケティング戦略の立案においては、縦軸・横軸のマトリックスが広く使われています。
この2軸マトリックス、現状の整理や、今後の方向性を一目で理解するツールとして便利ですが、一方では、状況を過度に単純にしてしまうリスクも含んでいます。
例えば、マーケティング戦略で利用する場合を考えてみましょう。現在の消費市場において、顧客が置かれている状況や抱えているニーズ、解決したい問題は、顧客の数だけ存在していると言っても過言ではありません。
それらをムリヤリ2つの要素に落としこんで整理することは、顧客の視点よりは、提供側の「都合」に偏ったアプローチです。顧客の真の姿を理解しようとするのではなく、顧客をステレオタイプ化して、自分たちが理解しやすいように、実態とはかけ離れた単純化を行なっているだけです。
このようなスタンスで、顧客ニーズの本質に迫れるのでしょうか?
顧客ニーズも、競争環境も、考慮すべき要素は増え続ける一方です。そのような状況では、マトリックスによる整理も、2軸にこだわるべきではありません。3つの要素で考えてみたり、2軸の整理に時間の流れを加味して考えてみたりすると、より深い洞察が生まれます。
「でも、3軸のマトリックスや、時間の流れを考慮に入れた分析では、チャートやプレゼン資料が作りにくいのでは?」
こういう疑問を持つ方もおられるでしょう。確かに作りにくいですし、仮に作ったとしても、分かりにくいでしょう。一目で内容が分からない代物になる可能性は高いです。
ただ、資料の分かりやすさを追求するあまり、立案する戦略がありきたりで無難なものになってしまっては、何の意味もありません。
単純で分かりやすい構造を持つ戦略は、すぐに先読みされ、模倣されてしまいます。複雑で分かりにくい環境に、あえて自らの思考を追い込んで、より多くの変数に立ち向かうことで、競合他社にとって「読みにくい」戦略への糸口が見えてきます。
神戸を拠点に活動するビジネスコンサルタント。アメリカでの7年間の勤務経験を含め、これまで色々な業界で、30を超える国・地域でプロジェクトに関わる。遊びで始めたInstagramへの投稿がきっかけになり、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活動。