百聞は一見に如かず。
本来は「何事も自分の目で確かめてみるべき」という意味の故事成句は、情報化が進展した現代においては「口頭でダラダラ説明せずに、映像で見せるべき」と解釈すべきなのかもしれません。
様々な視覚面の変化を加えて書籍を作る「ヴィジュアル・ライティング」という方法があります。
単なる挿絵などとは違い、ヴィジュアルそのものにも意味を持たせて、より深いストーリーと世界観を創りだすことが狙いです。
イギリス・ロンドンに拠点を置く出版社、Visual Editions社は、ヴィジュアル・ライティングを駆使したユニークな作品を刊行しています。
穴だらけのページで構成された小説。
著者のジョナサン・サフラン・フォアは、映画化された過去の著作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(Extremely Loud & Incredibly Close)』でも、ヴィジュアル・ライティングを使っていました。
1ページで完結するストーリーだけを集めた、製本されていない「本」。
物語の途中で段組みが変化していく作品。従来ではあり得ない文字組が多用されています。
Visual Editions社の作品は「そもそも本とは何か」という根源的な問いを引き出しています。
「紙の書籍」の固定観念を覆しながら、アナログでしかできないことを徹底的に追求しています。
この作品を一体どう読んでいけばいいのか?このヴィジュアルの意味をどう解釈すべきなのか?
これらの作品は、電子書籍では絶対に得られない読書経験を、読者に与えています。
ヴィジュアル・ライティングの「真似事」っぽい作品は、日本の出版社からも出ています。
会田誠『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』(幻冬舎提供の「立ち読みPDF」はこちら)
単なる「落書き」に終わってしまっていて、作品の深みを増すところまでは至っていないのが、ちょっと残念ですね。
固定観念を視覚に訴えかけるアプローチで壊すと、ものすごく大きなインパクトがあります。
ヴィジュアル・ライティングのエッセンスを、会社紹介やプレゼンテーションに積極的に使うと、かなり面白いものになりそうです。
神戸を拠点に活動するビジネスコンサルタント。アメリカでの7年間の勤務経験を含め、これまで色々な業界で、30を超える国・地域でプロジェクトに関わる。遊びで始めたInstagramへの投稿がきっかけになり、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活動。