World Economic Forum(世界経済フォーラム)が定期刊行している調査レポートの一つに、Global Gender Gap Reportがあります。
【違和感のある統計】
このレポートは、経済活動への参画機会、教育を受ける機会、健康・医療、政治活動への参画機会という4つの観点で、男女間のジェンダー・ギャップ(男女格差、Gender Gap)を指標化し、国別にランキングしたもので、男女間の「機会不均等」が小さいほど、ランキングが上位になります。
昨年10月に最新版が公表され、日本は、ランキング対象となった135ヶ国中、101位でした。アメリカは22位、中国は69位、韓国は108位。韓国は日本よりも下位に位置しているものの、昨年末の大統領選挙で、史上初の女性の大統領が誕生したのは、皆さんご存知の通りです。(日本ではまだ、女性が首相に選ばれたことはありませんね?アメリカでも、女性の大統領はまだですが…)
しかし、このランキングには、違和感を覚えます。本当に、これが日本の「実態」でしょうか?
【ジェンダー・ギャップは是か非か?】
ジェンダー・ギャップ、より端的に言うと「性差別」の存在は、社会通念との融和性が高いために見落とされがちですが、国力の面においては、明らかなマイナス要因です。
実は、世界の近代史を俯瞰してみると、明らかな「性差別」が存在しながらも経済成長を遂げた例がいくつもあります。例えば、高度成長期の日本、中東の石油産出国、産業革命時のイギリスなど。これらの国々では、人口増加、技術革新、豊富な天然資源などの強力な成長要因が存在していました。
有形無形の成長ドライバーの恩恵を受けて国力が成長している間は、性差別の存在は軽視、または無視されます。その結果、意識的にも、無意識的にも、性差別の存在が社会通念や人々の価値観に刷り込まれていく。時間が経つうちに、性差別の善し悪しの判定以前に、それが「問題」であると認識すらされない社会環境が生まれます。
一方で、国力の成長ドライバーがない国においては、国家の基本リソースである「人材」を活用しなければ、国力の衰退は加速していきます。そのような状況において、性差別が存在していることは致命的であり、性差別を是正する施策が必要不可欠になります。
つまり、過去に存在していた成長ドライバーを失ってしまった国々においては、社会通念に深く刷り込まれた性差別が、それが国家レベルでの「問題」であると認識されないうちに、国力の衰退を加速させてしまうリスクが極めて高いことになります。問題が認知されたときは既に手遅れで、全ての施策が後手後手に回ってしまいます。
【で、日本の現状は?】
日本における性差別の問題は、裏を返せば、ジェネレーション・ギャップの問題です。
政府や企業レベルでは男女間の格差是正を目指した施策が講じられていますが、それは高度成長期から脈々と受け継がれている古い価値観で、日本の社会システムが構築されているからです。Global Gender Gap Reportで日本の順位が低いのは、古い価値観に基づく社会システムに対して評価が行われているからです。
私たち一般市民の視点からは、性差別に関する日本の状況は確実に変わり始めています。
第二次ベビーブーム以降の世代には、男尊女卑の価値観は極めてバカげたものに映っています。それは合理的な考え方ではなく、社会システムの中に無意味な制約条件を生みます。そして何よりも、自分だけの生き方を自己責任で選択できる現代において、男尊女卑は単に気持ち悪く、幼稚で、責任逃れを生みだす価値観です。現代において、男女間の機会均等は当たり前のことであり、それを阻害する価値観とシステムは全て作り直さなければなりません。
政治経済のシステムに、これからの日本を担う世代の価値観を反映させるのは、第二次ベビーブーム以降の世代の役割です。これは一種の「無血革命」です。旧態依然の社会システムを変える、あるいは壊すために何ができるか? この問いに若い世代が立ち向かい、考え、アクションを起こすことで、日本の未来は確実に変わります。国力を衰退させるジェンダー・ギャップも無くなります。
日本に「起業家」が増えることも、未来を変える礎になります。性別を問わず、起業家精神を持った人々が世の中に新しい価値を生み出す。新しい事業が雇用を生んで、多くの人々の創造性を解き放ち、社会に生み出す価値が質・量ともに増大していくことで、21世紀の世界における日本のプレゼンスが高まります。
神戸を拠点に活動するビジネスコンサルタント。アメリカでの7年間の勤務経験を含め、これまで色々な業界で、30を超える国・地域でプロジェクトに関わる。遊びで始めたInstagramへの投稿がきっかけになり、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活動。