経験値が少ないうちは変化球を投げようとせずに、シンプルに。
こんにちは、まだまだ経験の少ないクリエイターの廣世です。
昨年から時々グラフィックデザイン関連の仕事を手がけるようになって、
他のデザイナーさんのお仕事を拝見する機会が増えているのですが、
実績と経験のある人ほど、最終アウトプットの「シンプルさ」にとことんこだわっておられます。
その姿勢は、デザイン史に名前が残るような超大物デザイナーでも同じです。
例えば、20世紀における商業デザインの土台を作った一人、ポール・ランド氏。
IBMやABC(アメリカ4大放送ネットワークの一つ)など、現代の私たちにもおなじみのものがいくつもありますが、
いずれもムダを徹底的に省いた、「シンプル」なものであることが共通しています。
これが、経験値の少ないデザイナーだと、どうなるか。
余計な文字やイラストを足す、奇抜なフォント(字形)を使う、黒以外に何色も使う・・・などなど、
シンプルにできるはずのデザインに「何かを足してしまう」のです。
シンプルなものを世に出すことが、怖いのかもしれません。
これまでに学んできたことを作品に反映したいのかもしれません。
自分自身のオリジナリティを発揮したいのかもしれません。
他にはない、奇抜なものを創りたいのかもしれません。
あるいは単純に、
クライアント(デザインの依頼主)が、そういう「何かが足された」デザインを好んでいるのかもしれません。
しかし、そのように足す必要のない「何かが足された」デザインは、ほとんどの場合、本来の目的を達成しないのです。
『ポール・ランドのデザイン思想』という本の冒頭で、ポール・ランド氏はこう述べています。
目的に適っていなければ、優れたデザインとは言えない。
見る者にメッセージを伝えられなければ、優れたデザインとは言えない。
メッセージをヴィジュアル化して人に伝える場合、ひと目で発信者の意図が理解されなくてはならない・・・それがどんな方法でも、相手に何か主張したいのか、それとも情報を提供したいのかにかかわらず・・・美しく、目的に適っていなければならない。
さらに、本の最後では、こう述べています。
直接的な説明をするのではなく、重要なメッセージを見る者の心に浮かぶイメージとして発信できる作品を作ること。それはデザイナーの務めである。
見る者を惹きつけ、納得させ、想像の世界にいざない、興奮させ、楽しい気分にさせることができるヴィジュアル・メッセージに仕上げられたとしたら、作品を目にする人たちに対して責務を果たしたことになる。
必要以上の要素が「足された」デザインは、目的をあいまいにして、メッセージを複雑にします。
実績と経験のあるデザイナーさんたちは、
目的を適え、的確なメッセージを伝えることができる「ギリギリ」の要素だけでデザインを仕上げます。
そして、依頼主に対して、なぜこの「必要最小限」のデザインが優れているのかを、明確な根拠を持って説明しています。
経験の少ないデザイナーがまず目指すべきものは、
アウトプットはシンプル。でも、それを創りあげるまでのプロセスは濃く、深い。
という状態です。
そのためには、何かを足したくなる自分自身の(あるいはクライアントの)衝動としっかり向き合って、
なぜそんな衝動が浮かんできているのかを理解しなければなりません。
ほとんどの場合、
「足りていない」のはデザインの要素ではなくて、デザイナー自身の「思考」と「自信」なのですから・・・
神戸を拠点に活動するビジネスコンサルタント。アメリカでの7年間の勤務経験を含め、これまで色々な業界で、30を超える国・地域でプロジェクトに関わる。遊びで始めたInstagramへの投稿がきっかけになり、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活動。